やさしく解説
耐量子暗号を、かんたんに
専門知識は要りません。鍵と錠前のことがわかれば、それで十分です。
まず、「暗号」とは?
暗号とは、デジタルの情報を秘密に保ち、信頼できるものにするための数学です。いわばデジタルの錠前です。
オンラインバンキングを使うとき、カードで支払うとき、メッセージを送るとき、目に見えない錠前があなたの情報をかき混ぜ、正しい相手だけが読めるようにしています。デジタルの錠前ははんこ(署名)の役目も果たし、支払いの指示が本当にあなたから来たもので、途中で書き換えられていないことを証明します。
では、何が問題なの?
科学者たちは、量子コンピューターという新しい種類のコンピューターを開発しています。十分に強力になれば、今ほとんどの人が使っているデジタルの錠前を開けられるようになります。どの扉にも合う「合鍵」のようなものです。
それがいつになるのかは、誰にもはっきりとはわかりません。何年も先かもしれません。それでも、銀行が待てない理由が2つあります。
- 泥棒は今、鍵のかかった手紙をコピーしています。かき混ぜられた情報を今のうちに記録して引き出しにしまっておき、合鍵が手に入ったら開ければよいのです。10年以上秘密にしておくべき銀行の記録は、すでに危険にさらされています。
- 錠前の交換にはとても長い時間がかかります。大きな国際的な銀行には、何十もの国の何千ものシステムに、何百万ものこうした錠前があります。すべてを交換するのに10年かかることもあります。
解決策はあるの?
あります。専門家たちが、量子コンピューターでも開けられない新しい錠前を設計しました。耐量子計算機暗号(PQC)と呼ばれ、「量子コンピューターが登場した後も使える錠前」という意味です。新しい設計は2024年に正式に公表され、すでに多くの身近な製品に組み込まれ始めています。
今やるべきことは、古い錠前を新しい錠前に交換することです。日本、ヨーロッパ、アメリカ、イギリス、シンガポール、オーストラリアなどの規制当局(銀行を監督する政府の機関)は、銀行にまさにそれを進めていることを示すよう求め始めています。目標の多くは2030年代前半から半ばです。
お金のかかるやり方と、賢いやり方
銀行を、世界中に何千もの建物を持ち、そのどれにもたくさんの扉がある巨大な会社だと想像してください。
お金のかかるやり方
人を雇って、クリップボードを手にすべての建物を回り、錠前を手で数えさせます。国ごとの検査官のために、それをまた繰り返します。そして、来年どうせ交換する予定の扉まで含めて、すべての錠前を同じ日に取り替えます。
賢いやり方
すべての錠前を自動で見つけ、リストを最新に保つ機械を使います。重要な錠前から先に交換します。残りは、扉をどうせ取り替えるときに交換します。中央に「鍵の管理室」を置き、今後の交換をすばやくできるようにします。
賢いやり方を、順番に
- すべての錠前を見つける。専用のソフトウェアが銀行のすべてのシステムを調べ、デジタルの錠前がどこにあり、どんな種類で、何を守っているかのリストを作ります。リストは自動で最新に保たれます。知らない錠前は交換できませんし、規制当局がまず求めるのもこのリストです。
- 重要な錠前から先に交換する。何年も秘密にしておくべき情報を守る錠前と、ほかのすべてが頼りにしている「おおもとのはんこ」を、列の先頭にします。
- 残りは、どうせ交換するときに。コンピューターや機器は数年ごとに入れ替わります。新しく買うものすべてに新しい錠前が付いていることを条件にすれば、作業の多くは追加の費用なしで進みます。
- 変えられないものには、新しい外扉を。とても古いシステムの中には、手を入れにくいものがあります。作り直すのではなく、出入りする情報の外側に、量子コンピューターでも開けられない覆いをかけます。
- 中央に「鍵の管理室」を置く。もう一つのソフトウェアが、すべての鍵を最初から最後まで面倒を見ます。鍵を作り、期限どおりに取り替え、古いものを廃止します。次に錠前を変える必要が出ても、10年がかりのプロジェクトではなく、簡単な指示一つで済みます。
なぜこれが、規制当局に応える安上がりな方法なの?
- 一つのリストで、すべての国に応えられます。国が違っても、規制当局が求めることは似ています。自動で常に最新のリストが一つあれば、国ごとに別々の作業をしなくても、すべてに答えられます。
- 二重払いをしません。機器は前倒しではなく、もともと交換する予定だったときに交換します。
- 作業の一部は取引先がやってくれます。契約で新しい錠前を求めれば、製品のメーカーがそれを組み込み、その費用を全顧客で分担します。
- 証拠はひとりでにできあがります。ソフトウェアが自動で記録を残すので、検査官に進捗を示すのに数週間ではなく数日で済みます。
- 鍵の管理室は元が取れます。デジタルの鍵の期限切れに誰も気づかずに起きる、恥ずかしいシステム障害も防げます。これは銀行が今まさに抱えている問題です。
言葉のまとめ
- 暗号
- デジタルの錠前とはんこ(署名)を支える数学。
- 量子コンピューター
- 十分に強力になれば、今日のデジタルの錠前を開けられる可能性のある、新しい種類のコンピューター。
- 耐量子計算機暗号(PQC)
- 量子コンピューターでも開けられないように設計された、新しいデジタルの錠前。
- 棚卸し
- 会社が使っているすべてのデジタルの錠前と、それぞれが何を守っているかのリスト。
- ライフサイクル管理
- デジタルの鍵を最初から最後まで管理すること。作る、更新する、取り替える、廃止する。
- 規制当局
- 銀行を監督し、ルールが守られているかを確認する政府の機関。
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